彼と彼女の秘密
「岳人、また転んだん?」
それは何気ない一言からはじまったことだった。
ソファーに座って靴紐を結びなおしていた岳人は、
あ?と言って俺を見上げた。
「あ・・・----よくわかったな」
「よくって、言わへんかったか?」
「侑士がはじめてだぜ、この話にふれたの」
岳人の頭の上に乗せていた手をどけて、そうやったか?と返す。
別になんてことはない。いつものやりとり。
「超能力でもつかったのか?」
よっと声をかけて立ち上がった岳人が悪戯な顔を向けて部室を出て行った。
この間からどうもおかしい。
勘違いではすまされなくなってきた。
長太郎が彼女と喧嘩したときも。
跡部が監督に呼び出されたときも。
それを聞く前に当ててしまった。
それは決まって相手の体に触れたとき。
いつからこんなことになってしまったのか。
なにかきっかけがあったはずだ。
思い出せ。思い出せ・・・・・・
『忍足くん、足に気をつけた方がいいよ』
一週間前くらいだったと思う。
クラスメイトのにこんな事を言われたのは。
すれ違いざまにぶつかってしまったとき、は突然言ったのだ。
特別気にも止めてなかったが、そういえばあの後部活で盛大に転んだんだった。
そして案の定捻挫。全治2週間。今も完治はしていない。
あの時はなんとも思わなかった。
忘れていたんだ。
「・・・・-----?」
治りかけの足をひきずって、部室を出た。
は授業が終わっても大抵は教室にいる。
友達と喋るためだ。
忘れたタオルを取りに行ったとき、偶然その場に居合わせた。
息を切らして教室に飛び込むと、イヤホンを耳にはめたまま、が机で眠りこけていた。
「ちょお、起きて・・・・」
揺り起こそうと体に触れた途端、友達と話すの姿が脳裏に浮かんだ。
「んん・・・・」
は少し身じろぎしてから、だるそうに体を起こした。
「あ、忍足くん」
目を擦りながら、寝ぼけた声で言う。
余程間抜けな顔をしていたのか、俺の顔を見てくすりと笑った。
「聞きたいことあるんでしょ?」
「知って・・・・」
「知ってたのか。俺に何が起こってるのか・・・・・・って?」
その一言ですべてを悟ったような、何も分からなくなったような感覚に陥った。
「大丈夫、そのうち慣れるから」
なんでもない風に言われて、俺は拍子抜けしてしまった。
悩んでいたこの一週間はなんなのか?
なんでこんな力が俺に・・・・・?
とりあえず分かったのは、のお陰というかそのせいでおかしな事に巻き込まれた
という事実。これは変えようのない真実だ。
テニスコートから聞こえる岳人の声が、やけに遠く感じた。
***
つ、続くのかなぁ。
これは『目隠しの国』をイメージして書きました。
未来が見えるヒロインと過去が見えるおっしー。
続きは気が向いたら、ひょっこり登場・・・かも。
04/9/30
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