幽霊 見えないから怖い 見えないから愛しい 彼はわたしにとってそんな存在だ 「のう、何でそげん機嫌悪いと?」 「知らない」 廊下を歩くわたしたちを、周りは面白そうに見ている。 早歩きをしているというのに、この劣等感はなんだろう。 後ろを見なくたって分かる。雅治はきっとポケットに両手を突っ込んで、 優越感たっぷりにわたしを見下ろしてるに違いない。 「なんでついてくるのよ?」 「が逃げるからじゃろ」 「そんなの理由になんない」 「そうかの・・・・・」 「だいたい―――――!」 立ち止まって振り返ると、雅治はポケットに手を突っ込んで、少し驚いた顔をした。 「マネージャーのわたしと、部員の雅治には関係のないことよ」 「随分冷たいのぅ・・・・・・」 「なにがッ・・・」 「あれはに取って消したい過去――か?」 「そ、そんなの当たり前じゃないッ!!」 昨日の部活中、わたしは部室に篭って部誌を書いていた。 雅治はそこに気配もなく入ってきた。 そこまでは可愛い悪戯程度だった。 「い、いきなり――――キス・・・・・するなんて」 キッと睨みつけると、雅治は遠くを見て頭を掻いた。 「しょうがないじゃろ、あれは・・・・・」 「なにがしょうがないのよ!どう見ても故意的だったわ!」 「だから・・・・・・・故意じゃったと。だからしょうがなか」 あっさり言われてわたしは反論すべき言葉を失った。 「俺の勘違いでなければ・・・・・」 「なによ・・・・―――」 「両想いじゃなかと?俺達」 にっと笑った顔に顔がかぁっと熱くなるのが分かった。 「ど、どうしてそんな自信満々に言えるの!?」 「そりゃあ部員と同じくらい長く一緒に居るけん」 「そんな事理由に・・・・・――――」 「ならんって言い切れる?」 知ってる、この人には口ではおろか何を差し出しても敵わない。 それを知ってて勝負を挑み、自ら負けに行こうとしてる。 「もう・・・・・知らないッ―――――」 わたしは再び歩き出した。雅治は笑いながら後ろからついて来る。 わたしがどんな気持ちで毎日を過ごしてるか知ってるの? その姿を見ては嬉しさで胸が躍り。 その姿を見ない日は記憶の中でアナタと過ごし。 「幽霊より性質が悪い・・・・・」 呟いた言葉は雅治に届いただろうか。 いつだって縛られたように動かないこの心を。 もう見抜いてるんでしょう? 「ついてこないでよッ――――!」 雅治はにこりと笑ってわたしを見下ろした。それはそれは優しい顔で。
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