わたしは珍しくまじめに日直の仕事をこなしていて。 ひとりではないことは確かだった。 相手が誰なのかは知っている。 部活を抜け出してきた彼は、笑ってドアに手をかけた。 「ちゃんのために走ってきちゃった」 背中を駆け巡る不思議な感じ。 こんな、夢を見た。 意識がゆっくりと戻ってくるように、目を開けた。 テレビドラマで見たように、綺麗にはいかないだろうけど。 目を閉じてもう一度あの夢の続きに戻れるのだとしたら わたしはすぐに目を閉じただろう。 けれどそんな確証はどこにもないし、枕元の時計が鳴り出す頃だ。 こんな起き方をした日は損をしたような気分になる。 目覚ましが鳴ってから起きたかった。 両手を突いて体を起こすと、まだあの不思議な感覚が残っていた。 幸せに浸っているようなひどく悲しいような。 きっと両者だろう。 叶うことのない夢を見て喜び、落胆しているのだから。 ハンガーに掛かっている制服を取ると、階段を下りた。 母親に挨拶を告げると、朝ご飯を食べずに家を出た。 急ぐ時間ではないのだけれど今日だけは家にいたくなかった。 あの幸せな空間を壊したくない。 出来れば本当になって欲しいのだけれど 生憎そんな関係ではないし、彼とはそれほど親しくない。 あの揺れる栗色の髪の毛に触れたらどんな感じなんだろう。 男の子にしては華奢なその姿を目で追った時、ふと視界に入った。 柔かそうに風になびく髪の毛。 触れたらどんな感じだろう。 ふらふらと歩いていると、公園に差し掛かった。 普段は目もくれずに通り過ぎるのだけれど、足を踏み入れてみる。 いつ振りかに乗ったブランコ。 あの頃は足さえも届かなかったのに。 錆びれた音がなんだか悲しかった。 けれども思い出すと何だか温かい。 自分の為だけに走ってきてくれたら、どんなに嬉しいだろうか。 わたしの、わたしの為だけに彼が走ってきてくれたなら。 「さん・・・・・?」 とっさに振り返らなければよかったと思った。 どんな顔をすればいいのか分からない。 「ふ、不二くん。おはよう」 ブランコの鎖を握りしめた。きっと手はサビ臭くなってるだろう。 ジャージ姿でテニスバックを持った不二くんは、心持ち首を傾げた。 「こんな朝早く何してるの?」 「あっ・・えっと。散歩?」 「僕に聞かれてもなぁ・・・・」 口元に手を当てて、穏やかに笑う。 まるでまだ夢を見ているかのようだった。 「さんちって近いの?」 「うん、そこの角曲がったところ」 「へぇ、今まで気がつかなかったな」 角の方をじっと見て、不二くんは言った。 わたしはまだどんな顔をしていいのか分からなかった。 不二くんがわたしの事をなんとも思ってなかったら。 そう思えば思う程、不安は募るばかりだった。 「僕、朝練あるから・・・・・あ。ぼくたち今日日直だね」 思い出したように言って、引き際も上手く 不二くんは去ってしまった。 彼の居なくなった場所を凝視している自分に気がつく。 揺らしたブランコからは相変わらず錆びれた音がする。 さっきから胸を占めていた幸せな気持ちは、いよいよわたしの心の中を占領した。 零れる笑みを堪えようと俯く。見ている人などいないのに。 あともう少しだけこの感覚を味わったら学校に行こう。 そしたらもう一回不二くんにおはようを言って、 どちらが日誌を書くか決めよう。 あの夢が本当になるかもしれない。 勢いよく立ち上がったあとには、 ブランコも嬉しそうに揺れていた。 **** 1000hitを記念して、 フリードリームです。 ドリーム変換してあるので ソースのコピーはしないほうがいいかと。 配布なんてするの初めてなので勝手がわかりません。 欲しい方はどうぞ。 報告してくださると嬉しいです。 上記のフリー配布は終了しました。 次回ハナが自爆したときにでも(笑)
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