散りゆく
まるで冬の景色を見ているようだと思った。
その儚さは目を閉じれば一瞬で消え去り、
後に残るのは後悔と愛しいばかりの輝き。
「幸村くん、具合はどう?」
理由をつけて毎日ここに来る、わたしの理由。
テスト前だからノート取っておいたよ。
委員会を決めなくちゃいけないけど、どれがいい?
真田くんからの伝言なんだけど。
どんな小さな理由だって、幸村くんは笑って迎えてくれる。
ただ隣の席だけだというのに。
わたしには他に言わなくてはならないことがあるのに。
彼が人気のあるテニス部員だからじゃない。
入院してるから、同情してるのでもない。
時々寂しそうに笑う幸村くんの、その意味を知ってるから。
『俺たちが行くとあいつはすごく寂しそうな顔をするんだ』
丸井くんの言っていた言葉を反芻する。
『今一番テニスをしたいのはアイツなのによ』
時々幸村くんはそのまま消えてしまうんじゃないかと思う。
わたしが病室のドアを開けると、決まってベッドに座っている幸村くん。
気が付かないときは窓の外をじっと見て、何かを考えているかのようだ。
そんな時、わたしはそこに走り寄って彼にしがみつきたい衝動に駆られる。
消えないで、どうか消えないで。
そんな風にいつか言ってしまうんじゃないかと、いつも思う。
「好き」と彼に言ったところで、それはどれだけの力があるんだろう。
幸村くんを支えてあげることも、代わってあげることもできやしない。
それなら、これ以上近づかない方がいいのかもしれないのに。
「さん ------・・・・・」
本当に稀に、幸村くんはわたしを名前で呼ぶ。
それが楽しみで、嬉しくて無意識のうちに待っているのだと思う。
雪のように冷たく、木漏れ日のように温かい
そんな彼だから側にいたい。
心の奥底に秘めた思いは閉じ込めて
彼が見せる寂しそうな笑顔は、
儚く散ってゆく木枯らしのように
今日も切なく綺麗だった。
05/2/8