告白は電波に乗せて。 そんな決まりはないのだけれど 当たり前になってしまった現在に。 こんな手紙が届きました。 て が み その日の占いは絶好調で、何だか気分がよかった。 家を出るのも少し早くして、涼しい風を受けながら学校へ向かう。 何となくいい気持ちで靴箱を開けると、一枚の紙切れが入っていた。 イジメなんて受ける覚えはない。 そうなら受取人の名前を書くはずはないだろう。 でも確かにそこには書いてあった。 さまへ はやる気持ちを抑えて、折りたたんだだけのルーズリーフを開いた。 さまへ あなたの事がすきです。 よければ俺と付き合ってください。 大きすぎる紙に、たった3行の文章。 そこで終わっていた手紙には、差出人が書いてない。 少しクセのある文字には、見覚えがなかった。 --------- いたずら? せっかくのいい気分が、少しだけ曇ってしまった。 なんとも形容しがたい気持ちが込み上げてきて、 わたしはその手紙を閉じた。 図書委員会をしているわたしにとって、唯一の楽しみ。 誰もいない図書室に入り込んで、本を読むこと。 図書室の先生に頼んで作ってもらった合鍵。 これはわたしと先生だけの秘密だ。 ドアを開けると、本の匂いが包んだ。 その空気をいっぱい吸い込んで、借りていた本をカウンターに戻そうとした。 ------ 戻し忘れかな? そこには既に本が返却されていた。 返された本はその日のうちに処理してしまう。 それが先生の方針だった。 珍しいこともあるものだと、本を手に取ると 本の下から紙切れが落ちた。 『あなたが好きな作家ですよね。 俺も読んでみました。面白かったです』 やはりクセのある文字で、そこにはそう書いてあった。 わたしはあの手紙を取り出すと、その紙と見比べた。 ----------- やっぱり同じ 差出人は同じようだった。 わたしの他にも、図書室の鍵を持っているひとがいるんだ。 そこから、わたしと彼の文通は始まった。 次の日も、本のしたには紙切れが置いてあった。 『難しい本ばっかり読むんだね よく分かんなかったけど、面白かった』 一日では読みきれなかった本が、そこには置いてあった。 彼も本好きなのだろうか?わたしは好奇心から返事を書いた。 (あなたも本がすきなのですか?) そして次の日、彼からの返事。 『本はマンガしか読まなかったけど、読んでみるとおもしろいもんだね』 (もっと読みやすい本を置いておきます。よかったら読んでみて) 『前のよりぜんぜんおもしろかった。またおしえて』 文通は日に日に親しさを増して、わたしはいつしか彼に会いたいと思っていた。 その日、楽しみが出来たことで目覚めるのがすっかり早くなってしまったわたしは、 いつもより1時間も早く家を出た。 学校では朝練をしている生徒がいて、その中を通るのは少し気持ちがよかった。 なるべく音をたてないように階段を上がる。 他の先生に見つかったら大変だからだ。 鍵を差し込もうとしたところで、手が止まった。 中で物音がする。 --------- もしかして!! 勢いよくドアを開けると、カウンターの前には一人の男の子。 「丸井くん・・・」 本の下に紙を置こうとしているところだった。 「・・・!」 それは、前の席の丸井くんだった。 ジャージ姿のまま、彼は気まずそうに言った。 「丸井くんだったの?」 この教室とは縁が遠そうな彼は、やっぱり浮いていた。 丸井くんは少し考える素振りをして、こっちを向いた。 「失望した?俺で」 そう聞かれて初めて考えた。 丸井くんだと分かって、驚きはしたものの別段嫌だという気はしない。 わたしが首を横に振ると、彼は安心したように溜息を零した。 「俺さぁ、本なんて読まないからマジ辛かったよ」 置いてあった本を片手に取ると、ぺらぺらとページをめくった。 「じゃあ何でこんなこと」 そこで本をカウンターに戻した。 そして、マジメな顔でこう言った。 「が好きだからに決まってんじゃん」 しばらく静かな時間が流れていたのだけれど、 わたしはハッと我に返って、丸井くんに質問した。 「なんでわたしなの?」 丸井くんは一瞬怪訝そうな顔をして、さぁ?と言った。 「だからじゃない?」 そして何でもないかのようにドアのほうに近づくと、 すれ違いざまに言った。 「俺の天才的妙技にかかった?」 メールで告白をしなかったのは、古風なわたしを見てのこと。 場所を図書室にしたのは、わたしの行動から。 彼の天才的妙技とやらに掛かった後で、教えてもらったことだ。 けど、図書室の鍵のことは最後まで教えてくれなかった。 「男には秘密の一つや二つあったほうがいいだろ?」 自信満々で放った言葉に、わたしは頷くしかなかった。 告白の言葉は手紙に乗せて。 秋の風吹くこの教室で わたしはあなたと出会いました。 ****** ブンブンでした。  実は彼、本を読んでません。 じゃあどうしたかって? マスター柳の登場です。 彼に頼んでそのあらすじを聞いたのです。 鍵はどうしたのか・・・。 それはマスターとブンブンの秘密らしいです。 ちなみに天才的妙技もマスターの技。 感想いただけたら嬉しいです。 04/9/20
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