大きく開け放たれた窓へひとつ。大きな溜息をついた。それは絶望とよく似た、感覚。













大切な君へ





















「幸村、風邪引くよ」

窓枠に手を掛けて体重を預けていた幸村が、振り返るのを視線の端で捕えた。 教室には何個もの窓があったけど、こうして開いているのはただひとつだけだった。 夕方になると、気温が急に下がり始める。昼間感じていた意味の無い幸福感は、 太陽と共に沈んでしまったのか、今は空虚感だけが残った。

「何となく・・・・寂しいね。夕暮れっていうのは」

同じことを思っていたのかと、苦笑いしながら落とした視線はそのまま。 自手練だと言った途端に、部員の顔色が変わったのは言うまでもない。 真田は自宅での用事があるからと先に帰宅してしまった。その背中をほくそ笑んで見て いたのはブン太と赤也。どこまで言ってもあの2人は変わらない。

昨日の部誌を書き忘れた。そう言った時、幸村が付き合ってあげると言ったのには正直驚いた。 幸村が厳しいとか、どこかの副部長みたいだとか言っている訳ではない。むしろ幸村は優しい。 いや、優しい以前に甘いのだ。部員にも。マネージャーの私にも。すべての事において、彼は 把握しているに違いない。それも要領よく。真田と決定的に違うのは、余裕を持ってそれを見ていられるか否か。

真田に部をまとめる力が無いと言いたい訳じゃないけど、あの力で捻じ伏せるやり方は好まない。 部員には1人1人個性があり。それなりのやり方があるのだから。脱線したら戻してやればいいのだ。 ほんの少しの乱れも許せない真田は、一緒にいると緊張する。けれど憎めないのも彼のいい所。

「幸村・・・・・もう進路決めた?」

さり気なく聞こうとしたのに、思わず声に力が入ってしまった。鋭い幸村の事だから。きっと 見抜いているだろう。どういう心情で聞いたのか。


「このまま高等部に進もうと思ってるけど。は?外部?」
「そういう訳じゃ・・・・・ないんだけどさ」
「うちみたいなエスカレーターは楽かもしれないね、他に比べたら」
「楽だけど。うん。なんて言うんだろ。上手く言えないや」
「何か悩んでるの?」


教室の片隅。座っていた机に差していた陽は鋭角を描きながら消えた。僅かに幸村を照らしていた 自然の光が、人工のそれへと変わって、寂しさは募るばかりだ。なにがこんなに悲しいんだろう。 何をそんなに・・・・・変えたがっているんだろう。

風が完全に冷たいものへと変わる。そろそろ窓閉めようか。幸村が後ろでに窓を閉めた。閉鎖された 教室。四角い箱。空気が薄くなってしまったかのように、息苦しさを感じる。私はこの狭い空間の中で、 たくさんの感情に揉まれている。毎日。


「悩んではいないよ。別に。毎日楽しいし。友達も持ち上がりでしょ?このまま」
「まぁ、そうだね」
「うん、別に心配することは何もない・・・・・はずなんだよね」


大切な事は何一つ告げていないのに。そこから気持を汲み取って欲しいだなんて。いくら 3年間一緒に頑張ってきた仲間にも、それは酷な話だろう。幸村は窓枠に体重を掛けたまま、 考えるように俯き表情を曇らせた。


「練習試合とかさ、たくさん組んで・・・」


言葉を大切に扱うように。幸村の口から零れ落ちる。


「色んな人たちに会ったよね」


思い出す。遠くまで強い相手を求めて試合をしに行ったこと。


「自信に満ち溢れてる人。厳格な人。臆病な人。精神的に弱い人・・・・・強い人」
「うん、確かにたくさんの人と会った」
「この狭い空間にいただけじゃ味わえなかった」


唐突に顔を上げた幸村。静まり返った教室を見渡す。

「高等部に行って、もっとたくさんの人と会って。時には理不尽な思いをして。 それでも生きていかなくちゃいけないんだよ。俺たちは。も含めて。でもその時にさ。 こうして一緒に戦った仲間ってすごく心強くない?」

幸村の言わんとしている事が、理解できているとは思えなかった。けれど、理由の分からない興奮が支配していって、 幸村の目はいつも以上に輝いている。人工の光の中で、遠くに見えた一等星よりも強く。強く。明るく。

「今はきっと不安定な場所にいるんだね。仲間のいる大切さをちゃんと理解できてなくて、 大人にもなりきれない。すごくバランスの悪い所にいるんだと思う。俺たちは。けど、あと数年も経ってきっと 思うんだろうな。皆と会えて本当によかったって。俺はに会えてよかったよ」

優しく言ったその笑顔に涙が出そうだった。私の存在がこんなにも明確にされたことなんて、今まで あっただろうか。必要とされて嬉しいと心の底から思った事が。こんなにも強く。


「どうにか進んでいくもんだよ、毎日なんて」


晴れ渡った空みたいに、あっさりと、でもしみじみ幸村は言った。私は頷く。そうだね。 幸村の言う通りだ。きっと数年後、私たちは本当の意味で笑い合ってる。皆に会えて よかった。仲間がいてよかった。













―――― これから広い世界を見る君たちへ。



































思いつきで書いたドリ。皆さん、進路はもう決まりましたか?
苦しいこともたくさんあるでしょうが、苦しんだ後の喜びは数倍も嬉しいものですよ。
悩む事は決して悪い事じゃないと、今そう思います。
頑張っている皆様へ。
























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