いっそ見えない鎖で縛ってしまおうか。
君が遠くにいかないように、俺の側にいてくれるように。
走り去っていく背中を見て、そんな事を思った。













好きだと言って
















昼休みの廊下、いつものように屋上から帰ってきた俺は、のろのろとそこを歩いていた。
廊下で話している集団を上手くよけて、自分の教室を目指す。
時間の進みが遅い、そんな感覚さえ覚える廊下。
そこを猛ダッシュで駆け抜ける頭を見つけた。

「あ、

は俺の呼びかけにも気がつかずに、風のように通りすぎてしまった。
(相変わらず忙しい女じゃのぅ)
両手をポケットに突っ込んだまま、その背中を見送った。
その後を追いかけるように走ってきたのは、丸井。
「あ!仁王!おい!仁王ってば!」
「丸井、そげん呼ばなくても気ぃついとる」
見なかったか?さっきから探してんだけど・・・・・」
「アッチ、走ってったとよ」
「あーもう!!委員会の集まりあるって言ったのによ!」
「お前ら委員会も同じと?」
「んー?まぁな、アイツがいると色々楽だし」
「一人で背負い込んで自滅するタイプじゃろ、は」
「よく分かってんなぁ!それが面白いんだけどさ!」
「ん、まぁ・・・・・ね」

そりゃあよくも分かるようになるだろう、俺は興味の無いことには一切関心を示さない。
を初めて知ったのは、目の前にいる丸井のお陰なのだけれども。
「アイツは女っぽくない」と言い切った丸井に反して俺は。
(それ以上の――――――いや、もう好意を抱いとる)
そんな訳で、彼女がいればそちらに視線が行ってしまうし、こんな風に丸井と仲がいい事もあまり好まない。
潔いほどのケーキの食べっぷりを見たのは、もう2週間も前のこと。

「まぁいっか、どうせ会議ったってロクな事じゃねぇし」
は何をあんなに急いどるんじゃ?」
「あ?さぁな、アイツいっつも走ってるから」
「どうにか捕まえられんモンかの」
を?あーそりゃ無理だろぃ!アイツ毎日あの調子だぜ?」
「丸井は相変わらずニブチンじゃ」
「ど、どーゆう意味だよ!」
「俺が言ったことちゃんと聞いとった?」
「捕まえたいんだろ?」
「そ、捕まえたいの」
俺がにこっと笑うと、丸井は目をキョロキョロさせて考えていた。
「好き・・・・・・だとか言わないよな?」
「―――――アタリ」

にこっと笑ってみせれば、丸井は溜息をついた。
「アイツは難しいぜ?」
「何でじゃ?」
「まぁ、見ての通り猫みてぇなヤツだし。何より―――」
「・・・・・・・?」
「お前が今まで付き合ってきたヤツとは違うぜ?」
「だからだと思っちょるよ」
「ん・・・・・?」
「だから好きになったき」
「ますますわかんねぇ・・・」
「丸井はニブチンじゃからな」

笑顔を振り撒いてついてくる女とはどこか違う。ちゃんと人間を見てる。


「でもまぁ・・・・」
「んー?」
「友達から抜け出す事が先じゃねぇの?」
「丸井とは違うき、まかせんしゃい」
「へいへい、そうですか」
「俺を誰だと思っとる?」
「お前が詐欺師だって知らねぇんじゃね?アイツ」
「騙される事が嬉しいときもあるんじゃなか?」
「それはソイツ次第だろぃ」




ー!!!!」
丸井の遥か先の方で、聞き覚えのある怒号が聞こえた。
俺も丸井もそっちの方向を見た。

「さ、真田―――――」
怒鳴る真田の前で頭をぺこぺこ下げていたのは・・・・・・・
「あれじゃねぇか?」
「あぁ、じゃのぅ」
何をしでかしたのか、は頭を下げつづけている。
「仁王―――?おい、どこ行くんだよ?」
俺の足は無意識のうちにそっちに向いていた。
俺の視界はだけを捕らえる。しか見えてない。

「仁王?何だ・・・」
「よぉ、真田、そろそろ解放してくれんかの?」
「今は駄目だ、状況を考えろ」
は俺を探してたんよ、な?」
に目配せをすると、一瞬驚いたように目を見開き、そして笑った。

「うん、そう。それで会議に出れなくて・・・・・」
「何故仁王を探す必要があった?」
「それは・・・・・その」
は視線を彷徨わせると、俺を見た。

「その理由を聞くんか?野暮じゃのぅ、真田も」
「なんだと?」
「女が男を探すって言ったら1つしかなか・・・・・」
「なんだ?」
俺はふぅと溜息をひとつついた。そしてニッと笑った。

「愛の告白」

真田は一瞬にして顔を真っ赤にした。しかし未だ威厳を保とうとしている。
「そ、そんな破廉恥な事はあってはならん!!!」
「なんでじゃ?」
「何故か?そ、そ、そんなことは決まっておろう!!部活に支障が出る!!!」
「そんなんは精神がたるんどるヤツがなる事じゃ。違うか?」
「に、仁王!!」

俺は成り行きを不安そうに見守っていたの手を引くと、その場を後にした。
後ろからはまた真田の怒鳴り声。今日の部活は覚悟しなければ。


「仁王くん!?ドコ行くの!?」
俺に手を引っ張られたまま、は後ろから言った。
無意識に歩いていた俺は、渡り廊下を越え、別館にまで来てしまっていた。
ふいに立ち止まって、後ろを振り向く。はまだ不安そうな顔をしていた。
「あ、助けてくれてありがと!まさか真田くんに掴まるとは思わなくて・・・・」
しどろもどろになりながらは答える。

誰もいない廊下に、の声は響き渡った。聞いていてとても心地よい声。
「ホントには猫みたいじゃ」
「ね、猫!?」
はすっとんきょな声を出した。俺の話にも脈絡がないから当然か。
「鈴でも付けておこうかの・・・・?」
手を繋いでいる手とは反対の手での首に触れた。
はビクンと首をひっこめて、顔を赤くして俺を見上げた。

「仁王くん?」
「お前を繋ぎ止める方法はないんかの?」
「え・・・・・?」
「ホントに手ごわいヤツじゃ」
「え?な、なにが!?話が全然分かんないんだけど・・・・」


が好きじゃ」


掴んだ手に、俺は力をこめた。は目をまんまるにして俺を見上げる。
俺達を遮るものは何もない。通り過ぎる風さえも止まった時間を感じさせない。



「好いとうよ、



息を吹き返したかのように、の顔は赤く染め上げられた。
「に、仁王く・・・・・・」
の顔がどんどん俯いていく。

「下見たらダメとよ?
言うが早いか、はパッと顔を上げた。
ククッと喉の奥で笑うと、は一層顔を赤くした。
「だって仁王くんが・・・・・」
「驚いた?」
「当たり前でしょ!?急にそんな事言うから」
「焦ったと、ゴメン」
手を素早く放し、両手を上げた。

「引き止めて悪かったの」
「う、ううん。大丈夫、急ぎの用事じゃないから」
「用事あるんじゃろ?早く行きんしゃい」
「じゃあ――――」

猫のようにどこまでも走りぬける彼女。掴まえられない。繋いでおくことなんてできない。


だからこそ―――――。


「あっ・・・・・・」


俺は再びその腕を取った。



「そう簡単には逃がさんき」



掴まえておけないなら、閉じ込めてしまえばいい。




掻き抱くように、彼女を強く抱きしめた。




「仁王くんッ」




が俺を好きになるおまじない」





「知ってて・・・・・」




「・・・・・・ん?」






「わたしが仁王くんを好きだって知ってて・・・・・」






背中に回った手で、俺は確信した。






やっと掴まえた―――――






「騙されてたの?わたし」






「俺は本気じゃ」





「こんな奇蹟みたいなこと――――」







「種も仕掛けもないと。俺だけの魔法じゃ」





俺が詐欺師と呼ばれている事を、が知らないはずがなかった。
それは自惚れに近かったかもしれないが。だけど。
それを知っていたから。利用しない手はないと――――。
人の心を欺くも、思い通りにするも詐欺師。
俺は捕まえた。



「そのうち俺無しじゃいられなくなるとよ?」




クスクスと笑う声が制服越しに伝わってきた。
気まぐれな猫はやっと俺の手におさまった。




























+++++
7000hitを踏んでくださったISUM様へ。
「告白する」か「告白される」のハッピーエンドとの事でしたが、
いかがでしたでしょうか?「ジンジャークッキー」の続きです。
異常に長くなってしまいました。すみません(>_<)
希望に添えたでしょうか?リクエストありがとうございました。

















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