二重人格
裏表のない人などいない事は分かっている-----頭では。
でも時々顔を覗かせる悪魔に、罪悪感を感じてしまう。
「でもそれってさ、誰にでもある事なんじゃない?」
「そうかなぁ。だって凄く嫌な事考えちゃうんだよ?」
「例えば?」
「言ったら引くから言わない」
くすくすと笑った彼は、悪魔とは無縁なのだろう。
日直に運良く不二くんと当たって、
部活に出てきていいよ、と言ったのに彼は待ってると言った。
そして不二くんはイスを反対に向けて、わたしの書く文字を眺めている。
「不二くんはどうしていつも笑ってられるの?」
「今まで結構な数の人に聞かれたなぁ」
「そうだよね、ごめん。いいや。答えなくて」
「嘘。別にいいよ、起こる事すべてに理由があるから、かな。」
「よく言うよね。でも実際むかっときたら忘れてるんだよ」
「何でも楽しまないと」
「不二くんは怒ることないの?」
「あるよ。僕だって怒ることくらいは」
「へぇ、見てみたいかも」
「見せたら引くから見せない」
目を合わせると、やっぱり不二くんは笑顔だった。
こうして日直をしている事も、何か理由があるのかもしれない。
そう考えると、少し嬉しくなってきた。
「なに1人で笑ってるの?」
「なんでもない」
「でも結構………」
「恐い?」
「そこまでは言ってないけど」
「不二くん時々性格悪いもんね」
「そーゆうは?」
「わたしは普通」
「じゃあ僕も普通だ」
「それ酷くない?」
軽く睨むと、とても嬉しそうに不二くんが笑う。
あと1行で日誌が書き終わってしまう。
惜しいな、なんて思っていたら不二くんが咳払いをした。
「って、好きな人いる?」
「なんで?」
「質問で返すのはなし。」
「わかった。いま………す。」
「その間が気になるけどいいや。」
「満足したの?」
「え?うん。まぁね。」
「それってさ、勘違いさせてるの?」
「さぁ。好きにとってくれて構わないよ」
「やっぱ不二くん時々性格悪い」
「そうかも」
「認めるんだ」
質問には答えず、不二くんはただ笑んだだけだった。
書き終わった日誌を閉じて、立ち上がった。
職員室に出さなきゃと言うと、じゃあ行こうかと不二くんは言った。
「部活行ってもいいのに」
「うん、それじゃあ少し都合が悪いから」
「不二くんに?」
「どっちにも」
そう言うと、不二くんはわたしの隣を歩きだした。
「もう少し勘違いしてもらわなきゃいけないからね」
「やっぱ不二くん性格悪いよ」
くすりと笑った不二くんに目をやると、手が少し触れた。
顔が熱くなるのを感じたけど、気づかない振りをした。
わたしももう少しこの距離でいたいから。