君と僕の話をしましょう










彼女はいつだってそうだった。土足で人の庭を荒らすような、僕からしてみれば 天敵みたいな人種だ。なのに、どうして僕はこの人と付き合っているのか、 それは僕にも分からないし、きっと彼女にも分かっていないと思っている。

呑気に寝転がっている彼女を見下ろして、溜息をついた。
本来なら、ここは一番落ち着く部屋なのだ。
風が木々を揺らしたり、鳥がベランダに止まりに来たり。
そんな自然の音が溢れる部屋だから、僕は好きなんだ。

彼女の、のお気に入りだというそのクッションは、見るも無残な姿になっている。
何かを抱きしめていなければ眠れない、という彼女の要望には、いつも僕が応えていた。 だからいつもを抱きしめて寝た。放さないように、しっかりと。そうすると、 癖になってしまうのか、今度は僕の方が依存症になってしまった。 を抱きしめていないと眠れない。けれど―――――だ。
そんな事をに打ち明けたところで、そう、とひと言いって、でも今日は帰りたい気分だから と背を向けるに決まっているのだ。一体彼女は僕が抱きしめて眠らない日はどうしているんだろう。 あのクッションは僕の部屋に常備してあるというのに。それはまた不思議な所だ。

頬杖をついて外を眺めていると、そうだ、と思い出す。が好きだと言ったチョコが切れていたはずだ。 以前はこれが好きなのと言った。僕はが来る日、同じようにまたそれを買っておいた。 甘いものが好きな彼女には珍しい、ビターチョコ。近くのコンビニで売られているそれを、僕は買い置きした 試しが無い。コンビニの店員は、僕が毎日のようにこのチョコを買いに来るのを不思議そうな顔でレジを打つ。 買い置きすればいいのに、と目は言っているが、僕は気にしない。だってそうだろう。もし買い置きしてある 事を知られれば、彼女はそれを持っていってしまうかもしれない。自分の部屋で食べるために。そうしたら、この 部屋に来る回数も減ってしまう。なんと子供じみた真似だろう。自分でも呆れてしまうほどだった。

しかし、そうしてでも繋ぎ止めておきたかった。を。
テーブルに手をついて、立ち上がる。テーブルが手の温度のせいでくもる。
財布だけをポケットに入れて、を起こさないように部屋を出た。

もうすっかり慣れてしまった肯定をこなす。そこにそれはあり、僕はいつもと同じようにひとつだけ取る。 レジへ持っていくと、もうすっかり慣れてしまったのか、店員は愛想笑いを浮かべて、値段を言った。 自動ドアをくぐると、もう春の気配がした。温かい、呟いて、マンションを見上げた。 エレベーターに乗り、ドアを開けると、は起きていた。

「起きたんですか?」

彼女はぼうっとした眼でこっちを見ると、頷いた。 そして今さっき買ってきた袋を持ち上げて見せる。
「これがないと怒るでしょう?」
「別に怒ったりしないよ」
少しだけ不機嫌そうに、は言った。

お湯を沸かして、紅茶を淹れた。
が買ってきたマグカップをガラスのテーブルに置く。
朝の6時に押しかけて来た時は正直驚いた。どうしてと、言う前に、は部屋へ勝手に入り、 何処かへ出かけようと騒いだので、「こんな時間ではまだ開いてませんよ」そう宥めたところ、 不貞腐れてフローリングに寝転がってしまったのだ。どうせなら一緒に寝たかったのにという 言葉は呑みこんで。

「今日はどこかへ出かけるんじゃなかったんですか?」
「ん・・・?そうだっけ?」
「何の為に朝早くからここに押しかけたんですか?」
「だって早く目が覚めちゃったんだもん」
「だからって6時に来なくても・・・」
「目が覚めたら観月に会いたかったんだもん」
悟られないように、この零れてしまいそうな笑みを見られないように。
照れ隠しに目を閉じた。

「観月がいるからここに毎日来るんだよ」

どうしたって喜びは隠し切れなった。
照れ隠しは通用しない。

一番欲しかった言葉が、ここにあった。


「知ってますよ」


言えば、彼女は最高の笑みを見せてくれた。
猫のように気まぐれで、好きなように過ごす貴方を。
側に置いておきたいから、僕は何だってするんです。


「大好き」


その言葉をずっと聞いていたいから。











++++
「あたしのいちばん」の観月バージョン。
お互いに好かれたいから、色んな所で駆け引きしてる。
そういう2人が好きです。


















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