わたしと貴方が相対するものの考え方をしていても、
なにか、たったひとつ何か通じるものがあればそれでいいんじゃない?
それが例え望んだ結果じゃなくても。
重ねる積み木
竜崎に合ったのは、本当の偶然だった。
キラを捕まえるための捜査一課に、わたしの父が入っていたからだ。
父の忘れ物を届けて、そのついでに持っていったケーキが原因だったらしい。
そこのケーキはとてもマイナーなもので、知るひとぞ知るというものだった。
竜崎はいたくそのケーキが気に入って、竜崎は父に言って、わたしはその部屋に呼ばれた。
そして竜崎はわたしを指名。そんな簡単に言える間柄ではないのだけれど
わたしは竜崎と知り合った。
そして毎日そのケーキを届けている。
ドアをノックすると、ワタリさんが開けてくれる。
そこでわたしを確認して、部屋に通される。
竜崎は決まってイスの上であの体勢をしたまま、ノートパソコンと睨めっこをしていた。
「あの、今日ももってきました。リクエストどおりモンブランです」
話し掛けるが無視。いつものことだ。
ワタリさんが済まなそうに会釈すると、わたしはいつもどおり部屋を出ようとした。
「さん-------」
最後に話をしたのはいつだったか。
懐かしい響きを含んで、竜崎はわたしを呼んだ。
ノートパソコンを閉じる音が、背中越しに聞こえた。
「なんでしょう」
「一緒にどうですか?ワタリ、紅茶を」
珍しいこともあったものだ。
一度話をしたものの、竜崎の言っていることがさっぱり分からなかったわたしは、
ただ頷いて聞いていることしかできなかった。
それは竜崎も気づいていたに違いない。
それなのに、どうしたことだろうか。
失敗は許されないのだと頭が一度認識すると、体が固くなって
つま先から冷たくなっていく。
どうすることもできずに立ちすくんでいると、再び竜崎に呼ばれた。
勧められるままに席につき、相席のような形でわたしたちは座った。
何を話し出すのか、びくびくしていた。ケーキの味などわからない。
「さんは、下の名前をなんというんです?」
ケーキに目線を向けたまま、竜崎は言った。
「ですが-----」
名前など聞いてどうするつもりなのだろう。
自分は偽名を使っているのに。意図がまったく読めない。
「では。」
いきなり呼び捨てにされて、わたしは思わず竜崎を見た。
ケーキに向けられていたはずの視線は、わたしをしっかりと捕らえている。
「今度から一緒にケーキを食べましょう」
思わぬ提案に、しばらく答えられずにいるとやはり竜崎から口を開いた。
「嫌ですか?」
心なしかしょんぼりしたようにも見える。
年は分からないが、少なくともわたしよりは年上に見える。
なのに。それなのに、今の竜崎の反応はまるで子供だ。
そのことでわたしの緊張は少しほぐれた。
「いえ、嫌ではありません」
伏せ目がちに言うと、そうですか、と安堵の答えが返ってきた。
「嫌ではありませんが」
変なところで区切っちゃったなと自分でも思った。
竜崎を見ると、案の定大きな目を見開いてわたしを見ている。
「竜崎の話は難しくてわたしにはよく・・・・・」
少し上を見た後、竜崎はなにかを思いついたように口を開いた。
「それなら、はどんな話題が好きですか?」
「わたしの好きな話は、とても有り触れたものです。
テレビの話とか。その日あったこととか。本当にその程度のことです」
竜崎の表情が少し和らいだように見えた。
「わたしにはそれで十分です。知りたいんです。あなたがどんな一日を過ごしたのか。」
やはり竜崎の話には、意図を見つけることができない。
わたしは少し眉をひそめてその真意を探ろうとした。
「あぁ、ですから・・・・あなたの私生活をもっと知りたいということです」
益々わからない。どうして竜崎のような人がわたしなんか。
「あなたは気が付いてないのでしょう。自分の持つ魅力を」
魅力という言葉に頬が蒸気するのを感じた。
そんなもの持ち合わせているとは、到底思えない。
「前にと話をしたことがありましたね。ロミオとジュリエットについて。
『なぜあのふたりは死ななくてはならなかったのか』私は歴史的観点からその
事実を述べた。けれどもは、二人の感情。見えないものを私に見せてくれたんです」
そんな大それたことをした覚えはまったくない。
恋愛小説やマンガの類が好きなわたしにとっては、当たり前の答えだった。
『ふたりは、黄泉の国での幸せを願った』
なんて臭いセリフだろうかと、自分でも思う。
だけれど、そう考えたかった。
愛はなにものにも勝つのだと。
「私に足りないものを、貴方が補ってくれるような気がしたんです」
相当甘いだろうと思われる紅茶に口をつけると、竜崎はひっそりと笑った。
ただ、ケーキを運ぶ為の役割だと思っていた。
竜崎がそんなことを考えていたなんて。
「これからは、こうして話をしましょう。私の事も知ってもらいたい」
まったく濁りのない目で、竜崎は言った。
わたしは、うつむきながらもはい、と答えた。
相対する考えをもっていたって、
何か、たったひとつ共通するものがあればいい。
それは例えば、わたしが貴方を思うようなこんな気持ち。
初めてのL。
これからいっぱい書きます!
04/10/1