不二を初めて見た時の印象は、なんて怖そうな人だろう
というものだった
友達に言っても誰ひとりとして賛成はしてくれなかったけども
わたしは不二の前に立つと畏縮してしまう
わたしの考える事、言うことすべてが間違ってるんじゃないか・・・
不二はわたしにそんな感情を抱かせた
なにも言わずにただ笑ってるあの顔が、わたしは苦手だった
だからなるべく近寄らないようにしたし、
不二が近くにいるときはわたしが遠のいた
そうすれば害はないと思ったからだ
夏休みが終わっていよいよ次の学期
わたしは少なからず意気込んでいた
前学期の成績があまりよくなかったせいもあるけど ------
宿題をサボったことは認める
だけどこの仕打ちはあんまりだ
始業式の日から授業のあるうちの学校は、
日直も夏休み前の人と継続だ
ただわたしは少し忘れていたのだ
黒板に並んだふたつの名前を見た
その名前の上には日直の二文字
今日何度目かわからない溜息を吐く
さん -------
彼はあの透き通った声でわたしを呼んだ
「早く仕事終わらそう?」
無機質な明かりが照らす教室で、
不二は窓際に立ちながら言った
自分は何もする気がないらしい
少し不機嫌になりながらも、
わたしは日誌と書かれたその本を開いた
1時間目からやった科目を書いて
授業内容まで書くのだ
2時間目までは始業式で潰れたからいいとして・・・
授業内容なんて少しも覚えていない
心の中でうんうん唸りながら進まないペンを眺めていた
「さんは僕の事きらい?」
唐突に投げかけられた質問に一瞬口篭もり、
不二に目を向けた
こんな時だから目を逸らしてくれればいいのに
そんな風に見据えられたら言える事も言えなくなってしまう
わたしは妙に気まずくなってしまって
だんまりを決め込んだ
どうにか流してくれないかな、なんて都合のいい事を考えて
だけどわたしの苦手な不二はそんな事しない
それはわたしが一番よく知っているはずだ
不二は相変わらずわたしを見ていて、
いつ答えてくれるんだろうかと待っている
わたしは悪い事をしたような気分になった
蛇に睨まれたなんとか-----だ。
「部活は行かなくていいの?」
答えたくない意志を汲み取ってほしくて、
話題を逸らした
あぁ、もうこんな時間?
じゃあ後はよろしく
不二がそんな人ならよかった
なんでわたしなんかに構うんだろう
依然そこに立ち続ける不二は、案の定まだ平気と言った
それよりもさっきから胸打つこのリズムはなんだろう
異様に早い
これじゃあまるで勘違いしてるみたいだ
なんで不二はわたしに構う------?
気づいてしまったらもう遅い
自意識過剰だと笑われても、わたしの顔は赤くなるばかりで
おさまってくれそうにない
赤くなってしまった事実と、それを見られている羞恥心から
私は俯いて唇を噛んだ
不二はそれに勘づいたようで、クスリと笑う
その音に反応して顔を上げると、わたしの苦手なあの顔で笑っていた
なにもしてないのに弱みを握られてしまった気分だ
反撃を試みてみたけど、イマイチいい考えが浮かばなかったので
わたしはまた俯くほかなかった
それから不二は取ってつけたようにこう言った
「もうこんな時間だ、あと頼める?」
そう言うと、わたしの前を横切った
なにもしてないくせに、と背中に言って
重そうなテニスバックをいとも簡単に担ぐと、
にこりと微笑んで教室を出て行ってしまった
未だ埋まる事のない日誌に目を移す
空けられる事のなかった扉に気づいてしまったように、
こころがざわざわした
扉の向こうの事はとうに知っていた
外に目をやると、不二がテニスコートに入っていくのが見えた
* * * * *
きゅうに不二で書きたくなりました。
あまり変化のないようなドリですが、
色々と込めました。ギュウギュウと。
ヒロインは元々不二が好きでした。
だから不二がどんなひとか知ってました。
でも自分を知られる怖さから苦手な振りをしてた・・・
というお話です。
ちょっとかわりずらいですね・・
感想いただけるとうれしいです
04/8/30