この世で俺はただ一人。 誰も俺に成り代わることなんて出来ない。 だから自分の為にここまでやってきたんだ。 H A N G E ! いつものように自室で雑誌を読んでいた。 それは決まってテニス雑誌だったが、プロがどうしたこうしたという事に 正直興味はない。ただ自分の実力向上の為だ。 ドアの外ではメイド達がガチャガチャと音を立てている。 今日の分の片付けと、明日の準備だろう。 いつもの事だから特別気には止めなかった。しばらくすれば止む。 ふと視界に入ったので空を見た。 ずいぶん赤い月だ、と思う。それに位置が低い。 こんな日は何かが起こりそう。アイツならそんな事を言いかねないな。 ふ、と笑って思い出す。隣の席の喧嘩相手。 俺に食って掛かってくるのはアイツくらいなもんだ。 ぴたとドアの外の音が止んだ。 もうそんな時間かと時計を見上げる。 雑誌を閉じてベッドに入った。明日も朝練で朝が早い。 部長という立場上、誰よりも早く行っていなければならない。 それが部を仕切る者の責任・・・監督の口癖だった。 目を閉じると、今日一日の疲れも助かってすぐに眠りについた。 ☆・☆・☆ ジリリと耳障りな音がする。頭のすぐ上だ。 何だと体を起こしてその正体を確かめた。 「なんだ・・・?コレ」 そこにあったのは何の変哲も無い目覚まし時計。 だがそれが自分の部屋にある。昨日はこんなもの無かった。 眺め回して見れば、ここは自分の部屋ではない。 しいて言うなら---------女の部屋。 それはわかった。けれども。 昨日はどこにも出かけてはいないはずだ。 女の部屋で目を覚ます事も無いとは言えないが、 昨日は確かに自分の部屋で寝たはずだ。どこにも出かけていない。 何が起きたのか把握できずにいると、すぐ近くにあったドアが開く。 「あら、今日は早起きなのね。何か用事でもあるの?」 突然入ってきて、訳の分からないことを言う女を見た。 外見は母親と言った感じか。違和感の全くない話し方を見ると、 俺を誰かと間違えているといったことでは無いらしい。 「おい」 その女が振り返る-------若干怒りの色を浮かべて。 「ここは・・・・・どこだ?」 怒っていたかと思えば、急に呆れたような顔をした。 「何言ってるのよ。自分の家も忘れたの?」 ハァと息を吐いて、部屋を片付けている。 その姿をじっと見ていると、手を止めてまたこちらを振り返った。 「そんなに自分がわからないなら鏡でも見てみたらどう?」 女の指差した先には、全身の映る鏡があった。 ピンクで塗りたてられていたその鏡の前に立つ。 「なっ・・・・!?」 見て唖然とした。コレは・・・・・・ 「・・・・・?」 「そうよー、自分の顔をよーく見てみなさい。1日で人が変わるわけないでしょ」 もう一度溜息を吐いて、その女は出て行った。 鏡に触れる。その鏡の中のは同じように鏡に手を当てた。 「何だよコレ」 髪型も違う。顔の作りも・・・・・・身体の作りも。 胸に手を当てる・・・・・・ 「ふん、たいしたことねぇな」 じゃなくて!!!!どうしたことか。 事実を受け入れられないまま、時間だけが過ぎる。 どうして俺がの中に!? そうだ。俺の身体はどこに行った。 学校に行けば何か分かるかもしれない。 俺はクローゼットを開けてガチャガチャとあさり、氷帝の制服を取り出した。 女物だということはこの際目を瞑るしかない。 急いで着るとその辺にあったカバンを引っ掴み、朝食も食べずに家を飛び出した。 「ったく!何でこんなに体力ねぇんだ、この身体は!!!」 業を煮やし走り出したものの、体力の無さに怒りを覚える。 ハァハァと息を切らせてたどり着いた学校。 まだ朝練が始まって間もないはずだ。 部室まで走り抜けると、勢いよくドアを開けた。 「て、てめぇ!なに・・・・すわって・・・・・やがん・・・だ」 息が切れて言葉が出ない。膝に手を当てて呼吸を整える。 部室内には、俺がというより俺の姿をしたがいた。 そして部活をしているはずの彼らは、揃いも揃ってそこにいたのだ。 「跡部ー!わたしの身体で変な事してないよね?」 「あぁん?てめぇこそどうなんだよ」 「本当・・・・・なんですね」 長太郎が俺とを見て零した。 「でもよぉ。中身が違うだけなんだろ?」 「それが問題なんじゃん!がっくん」 「うわ!跡部の顔でがっくんとか言うなよ!怖ぇ!」 「てめぇ岳人!後で覚えてろよ」 「跡部もその顔でその口調はどうかと思うで?」 そんな事はどうでもよかった。どうにか元に戻らなければ。 俺は俺の(中身はだが)の頭を掴むと、揺すってみた。 「うわっ!!痛い!痛い!なにすんのよ!」 「うっせ!早く俺の身体から出ろ!!!!」 俺の声でぎゃあぎゃあ騒ぐアイツをこれでもかと揺さぶり続けた。 「ちょぉやめ。跡部。そんなんすると自分ハゲんで?」 ぴたりと手を止める。そうだ。これは俺の身体だったんだ。 ソファーにどかりと座ると、を睨みつけた。 「何よ。わたしだって怒りたいんだからね」 流石に自分の顔で女言葉な奴を見ているのは気持ちが悪い。 ふんと視線を逸らした。 「ちょっと跡部!足広げて座らないでよ!パンツ見えちゃうじゃん!!」 それも無視した。隣では岳人と慈郎がなにやら騒いでいる。 「まぁアレやな。2人は今日一日くらいなりきって生活するしかあらへん」 明日になったら戻っとるかもしれんし、と忍足は無責任な事を行った。 「何で俺がコイツの振りなんかしなくちゃなんねぇんだよ」 「あー・・・・それはもうアカンわ」 なんだと目で訴えると、忍足は妙に真剣な目をした。 「えぇか?跡部は俺言うたらアカン。はわたし言うたらアカンで?」 「でも・・・・・さ」 「えぇか?戻った時のこと考えてみぃ?」 俺はと目を合わせた。 「ちゃんは急に不良の仲間入り。跡部様はオカマだったのよ・・・って言われんで?」 いやー!!!とは頭を抑える。それは俺だって同じだ。 「どうすんだよ。喋らなきゃいいじゃねぇか」 「それもアカンやろ。2人ともそれぞれ付き合いゆうもんがあるやろ?」 「それなら・・・・・ずっと2人でいればいいじゃん?」 の提案に納得しかけたが、思いとどまる。 「待て、お前と一日過ごすのか?ずっと?」 「そうだよ。それしかないじゃん」 嫌だと言おうとしたが、止めた。面白い。演じ切ってやろうじゃねぇの。 「せいぜい粗ださねぇようにやるんだな」 「あんたこそね」 同時に席を立つと、ドアに向かった。 忍足がなにやらぶつぶつ言っていたがこの際関係ねぇ。 俺様の名にかけて今日一日乗り切ってやる。 として!! next→→in the classroom.... ♪♪♪ 跡部様相当やる気です。 次は教室でのひとコマ。 隣の席同士の彼らが何をやらかすのか 楽しみ!
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