お気に入りのクッションを抱きしめて、何時の間にか眠ってしまった。
頭を上げると、低血圧の所為で気持ちが悪い。頭がふらふらした。
そこには観月の姿がなかった。
愛想でもつかされたかな、働かない頭で思った。
今日は天気がいいね、なんて眠る寸前に言った気がする。
部屋には一筋の光が差し込んでいた。
その光の中に、埃がキラキラと舞っていた。
観月の部屋にあるものならば、すべてが輝いていた。













あたしのいちばん













物音しない部屋で、本当に愛想つかされたのかなと心配になってきた。
いつもならコーヒーメーカーの音とか、お湯を沸かすヤカンの音がしてる。
無音の中に差す光。舞う光さえ音を無くしてあたしは呑みこまれる。
お気に入りのクッションはあたしが強く抱きしめすぎた所為で少し形を変えていた。

ガチャンとドアの開く音がした。
反射的に振り返ると、ビニールの袋を持った観月が「起きたんですか?」とあたしを見た。
その声と仕草がいつもと一緒だったので、あたしは安堵の溜息をもらし、ひとつ頷いた。
「これが無いと貴方が怒るでしょう?」
観月が取り出したのはあたしが好きなチョコレート。
いつだったか、観月の部屋で見た時「これ好きなんだ」と言ったら、次からは
前からそうだったように、机の上に置いてあった。いつだって、切らすことなく。

「別に怒ったりしないよ」
「そうですかね」
小さく笑った観月はキッチンの方に行くと、お湯を沸かし始めた。
心地いい気温とお湯の沸騰する音。

「わざわざ買いに行ってくれたんだ?」
「えぇ、すっかり常連ですよ」
観月が目で示した先には、ここからもよく見えるコンビニ。
「そんなに毎日行ってるの?」
「それだけ貴方が毎日来るということでしょう?」

言われて、少し嬉しくなった。
観月はあたしの為に、こうして毎日惜しげもなく通ってくれているのだ。
チョコレ―トのパッケージをまじまじと眺めて、ふふ、と笑う。

「あんまり食べ過ぎるとダメですよ?」
「いいじゃん、好きなんだから」
「僕が買いに行く頻度がさらに増えます」
コポコポとお湯をカップに注ぐ音がする。

「楽しみのひとつに加えてよ」
カップを2つ持った観月がテーブルに近づいてくる。
どちらもあたしが買ってきたもの。
黄色と藍色のカップ。藍色は観月のカップ。

ガラス製のテーブルに置くと、カン、と音を立てて紅茶が揺れた。
両手で包むようにカップを持ち上げると、観月の様子を伺いながら啜る。
観月は紅茶を飲む時、必ず目を瞑る。
あたしはその瞬間がとても好きなのだ。

「今日はどこかへ出かけるんじゃなかったんですか?」
「ん・・・?そうだっけ?」
「何の為に朝早くからここに押しかけたんですか?」
「だって早く目が覚めちゃったんだもん」
「だからって6時に来なくても・・・」
「目が覚めたら観月に会いたかったんだもん」

微笑んで目を伏せる観月。
あたしがここに毎日通う理由。
大好きなチョコがあるからじゃない。
お気に入りのクッションの為でもない。


「観月がいるからここに毎日来るんだよ」


「知ってますよ」


見透かしたように微笑むその顔が好き。
観月を取り巻くもの全てが好き。

立ち上がり、開け放った窓からは、緑の匂いがした。
「この部屋にも春が来ましたね」
振り返ると、観月は眩しそうに目を細めた。


「―――大好き」


自然に零れた言葉に、観月はあたしの大好きな顔で笑った。
あたしの一番好きな顔で。




















+++
観月ドリが読みたいと言ってくださった方がいたので1つ。
名前変換ナシですね、すいません。
観月の部屋はガラスのテーブルに観葉植物が置いてあると思う。
偽観月ですが、けっこうお気に入り。



























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